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投稿:1992/08/01  カテゴリ:出会い・ひと, ささやか紀行
紀州路にうめぼし和尚を訪ねて
  私のことも、うめぼしのことも書かなくてよいのですよ。
  ここに来てくださっただけでうれしいのですから。

龍神温泉・上御殿で一泊。翌7月25日、清川村本誓禅寺に赤松宗典師を訪ねた。3年前酒の知友、伊藤禎次氏から一度是非訪ねてみてください、と紹介されて以来ずっと気にかかっていた。今春、塚本井太郎氏からも同様のお誘いを受けた。私は気が熟したと喜んだ。
寺から坂道をのぼる。緑が美しい。海抜280メートルの山並は、おだやかにこの里をつつんでいる。私たちは陽の落ちる少しまえからこの山の中腹で酒を呑みはじめた。ここはまさにパノラマである。すこしづつ暮れる山の尾根がますますやさしくなる。それは、和尚の語りとほとんど一体となって私の心に染み入った。360度の自在。この存在は言葉を必要としない。私の前のやや下にマリア様と観音様、そして二人から生まれた子がいる。私はずっとその像と向かいあって掛けていた。これには理由がない。東西南北のまるでだめな私である。多分、西を背にしていたと思う。
「私のことも、うめぼしのことも書かなくてよいのですよ。ここに来てくださっただけで嬉しいのですから」。最初に和尚のおっしゃった一言が酒談義を超え、この地に在って呑む酒の本当の美味しさを教えてくださった。
「月がかくれたよ」と、塚本さんがいった。「里の灯りが少なくなってきましたね」と、則友さんが教えてくれた。
「そろそろ降りましょうか」和尚はランプで足元を運んでくださった。
                                   信州佐久/八岳堂にて
投稿:2001/06/20  カテゴリ:出会い・ひと, ささやか紀行
輝いてくれてありがとう 〜山寺の朝 紀州南部川村清川にて〜
まえがき 
8年ぶりで訪ねた本誓寺。
山寺の懐かしい坂道。何からお話ししようかしら。
一面の梅林が迎えてくれました。
あの時もこんなにおだやかだったかしら。
  君は真正面の山あいから顔を出した。
  なんだか薄ぼんやりとしているねえ。眠いのかい?
  まだ顔を出したくはないんだろ?
  お願いだから輝くのはちょっと待っておくれ。

★「故里道場」二日目の朝。真新しい材木の深い香りにひたっていた。私は日の出を見ようなんて、これっぽっちも考えていなかったわ。鶯の声が心地よくてなかなか布団から出られないのよ。
 (あの小鳥の囀りは何処からだろう…)
それが気になってぼんやりとしたまま起きた。
「おはようございます。もうすぐ日の出がみられるわよ」
アキコさんが玄関の上がりに座っていた。
なんとなく座ってはみたものの眼が開きません。眠い、っていうことじゃないんです。体が大の字って感じなの。
「わたし、顔あらってくるわ」
「日の出が見られないわよ。もうすぐよ」
アキコさんはまっすぐ正座している。
私はパジャマのままドカッと座り込んだ。
 (こんな姿をコウドウさんに見られたら恥ずかしいなあ)
 (アキコだったらいいのかい?)
散歩から戻ってきた大将のダミ声が聞えそうだわ。
 (そうよ)
いいえ、そうじぁないわ。昨日の朝、和尚が言っていたでしょう。「有るがままに」と。そして力を抜いて息を吐けば
「ムゥ―〜―」も長く続けられると。これは座禅の時の話しです。
 (有るがままでいこう)
     
   頭をもちあげて出てきましたよ。
   朝日が起きあがりました。
   私もすっかり心の眼(まなこ)が開いたわ。
   輝いてくれてありがとう!

私にはこの感動をつたえる言葉が見つかりません。
残像があちこちへ動いて消えてなくなるまで見据えたということは確かです。強いて伝えるとすれば、
「眼(まなこ)をひらいてしっかり見据えよ」
という和尚の言葉を捧げます。
    *
★また、正直なところ「座禅をする」なんて想ってもみなかった。大将とアキコさんはしっかりその身支度ができていた。結局私はいつも「無目的」な旅をしていると思うのです。目的地はあるのに「無目的」になってしまいます。
    *
かつて曹洞宗の本山で幾度か座禅をしました。始めは夏でした。ミ〜ン、ミ〜ンと鳴く蝉の声が気になるわ、半眼はだらけてしまうわ、組んでいる手はブルブル震えてくるわ、組んでいる足は痺れてくるわ、あげくの果てに、「ああ早く終わりの時間にならないかなあ」と考えたり…。何度座ってもこのような雑念があとからあとから追っかけてくるのです。私は座禅を止めてしまいました。
    *
前述の座禅の「ムゥ―〜―」は腹の底から声を発します。しっかり眼を開いて見据える。このことは驚きでした。しかし、私は納得しました。
    *
★私には亡くなった父の影響をうけたものの一つに座禅があります。父は座禅をしている時、後ろに立ったお坊さんの「気合」がわかると言っていました。警策の一振りの響きでも「気合」がわかると言っていました。77歳で亡くなったのですが、倒れる直前まで寺へいって座禅をしていた人でした。その父は私にこう言いました。
「何十年も座禅をしているが[無]にはなれんもんだ」と。
ですから、腹の底から声を発する、しっかり眼を開いて見据える、という言葉をきいた時、気持が楽になりました。「座禅」に対する私自身の不信が払拭されたことが嬉しかったです。
    *
★17日の日曜日は串本まで足をのばしました。わずか二日ばかりの「故里道場」における宿泊でした。四方の山々に囲まれた梅林が放つたわわな梅の実の匂い。路肩には枇杷の木がいっぱい。ビワちゃん、沢山食べさせてくれてありがとう。
    *
18日の朝「故里道場」を後にしました。少しばかり下ってふりかえるとコウドウさんが立って見送ってくださっていたので、おもわず両手を上げてしまったわ。コウドウさんは武蔵坊弁慶のような風貌をしています。この3月から禅の修行中とうかがいました。
    *
下りの景色がまた美しく、朝の澄みわたった空気をお腹の底から吸って大きな声をはりあげながら坂道を下りました。本当に気持ちがよかったわ。
    *
下りの道がどこか記憶の坂道に似ていた。
 (大連のあの坂道だわ)
    *
★初めて清川村本誓寺を訪ねたのは平成5年7月。酒友と三人。このことは「きママレター12号」に書いたので省きます。あの時、夕日が山並みから消えてわずかな月明かりで酒を飲んでいた。
「月がかくれたよ」と一人が言った。
「そろそろ降りましょうか」和尚はランプで足元を運んでくださった。
「月がかくれたよ」と言った人はもうこの世にいない。その地に「故里道場」が建立された。私は無意識に過ごしてきたが、命がながれていることを知った。
    *
和尚のお経を聴いたのも今回が初めてです。赤松宗典師に引き合わせてくれた亡き人に和尚のお経を捧げて感謝します。                       合掌
    *
★この2月、紀州薬師梅から梅の花の小枝が届きました。気品のある香りにふれた時から、実のなる季節に訪ねようと決めていました。和尚さま・大黒さまはじめ、お寺の方々、紀州薬師梅のみなさまにお礼申し上げます。

  酒は謹んでいたんだろ、ですって?
  私が般若湯のご相伴をしないわけないじぁないの。
  「ビワ何個 食べたかと聞かれて 20個よ」
                                                                8年ぶりに清川村を訪ねた日
投稿:2002/12/03  カテゴリ:過去と未来, 日々のできごと
〔51号〕 私の「夢実現」只今工事中 (その一)
  いつのころからか
  私は分水嶺に惹かれるようになった。
  小さな山間をたどる。
  そこに辿りつく勇気がほしい。

 唐突ですが鳶の雄大な遊びをみたことがありますか? 
    *
 「おばあちゃん、ぼくたちどうしてカラスより高いんだ?」
 「ヒカル君、電車が通る道だったんだね」
    *
 この夏のある日、小海線の電車の中でおばあちゃんと孫の会話を小耳にはさみました。みなさんこの会話の意味がわかりま? たしかにカラスがいたのです。(ウ〜ン?)こうして実に愉しそうな二人の会話が続きました。私はますます二人の話しに引き込まれてしまいました。ふとその時、今年も出かけたあの紀州の梅の里で見たトンビの姿を思い出しました。どうやらこのおばあちゃんと孫のヒカル君は東京近郊から来ていて軽井沢の避暑地に滞在しているようでした。
 「ヒカル君、宿題もあるでしょ」
 そろそろ帰らなければならないので、おばあちゃんはヒカル君を小海線に乗せてあげたかったようです。
    *
★本年2月以来の「きママレター」です。あっという間に11月になってしまいました。「みなさんお久しぶりです」なんていったら怒られそうですね。何から書こうかしら。あまりの御無沙汰で手が動きません。とにかくあのおばあちゃんと孫のヒカル君のことが浮かんだ次第です。
    *
★「近頃あの手紙がこないですねえ」と、ダジャレの松ちゃん。覚えていてくださって嬉しいわ。メールの交信をしていない方にはこのレターを郵便でお送りしていました。
★「連休は何をしていましたか」料理教室のユカさんからメールが届いた時、決まり文句の返信が味気ないように思われました。同じ調理台でたのしく学んでいた仲間はツルコさん、れいかさんと私の四人です。そうだあの二人にも伝えなくちゃ…。
    *
ずう〜と空き部屋になっていた「きママレター編集室」の復活の言い訳(?)をさせていただきました。これから心を入れかえて書きます。 (三日坊主じゃないのかい?)コップ先生の声が聞こえてきそうです。

  それにしても今年はそんなに心のゆとりがなかったかしら?
  お酒は旨かったのでしょ? はい。いけませんねえ。

平素のご無沙汰をお詫びいたし、みまさまのご健康をお祈りしています。元気に生きていきましょう。
                                                              胃袋が少し穏やかになった日
投稿:2014/04/11  カテゴリ:出会い・ひと, お酒とわたし, 過去と未来, 日々のできごと
淡墨桜が咲きました
まえがき 
嬉しくて! 嬉しくて!
   
庭の淡墨桜 20140411

 サァッ〜サラサラ〜 風がきた
 ゆらゆら チョロチョロ
 ピンピン トントン
 ほわぁ〜 ふぁわ〜 ふぁわ〜
 やっぱり ゆらゆら やっぱり そよそよ
 アッ、またそよ風が遊びにきたわ
  さあ、踊りましょう
 淡墨桜は平成17年6月、大さまと、キリンさんが苗木を植えてくださったのです。あれから9年…。すっかり(根)を張っております。華やかではありませんが、素朴な花びらが私は好きです。対話をしてくれる桜です。素朴なこの(薄墨桜)に自身を重ね…ぼんやりと愉しんでいます。
 満開になるのは一週間、いや、10日ほど先になりますでしようか。
   
庭の淡墨桜 20140411

 おはぎ旨し 淡墨桜に 一口いかがと
 手をのばし
(花見酒じゃないのかい?)
(はい。淡墨桜がおはぎを食べたいと申しておりますの)―きくちゃんの独り言―
 私、嬉しいの! 大さま、キリンさん、9年目の感謝をこめて! 本当にありがとう! 
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